微分幾何学 2: 接ベクトルと曲面のものさし
Series
高校生からの微分幾何学前回は、多様体を「近くで見ると平らな場所」として見ました。
今回は、その場所でどの方向へ進めるかを表す接ベクトルを見ます。
高校数学で曲線 を習うとき、ある点で接線を引きます。接線は、その点の近くで曲線をいちばんよく近似する直線です。
多様体でも同じことをします。
接ベクトルは、その場で進める方向
円周上の点を考えます。
その点から円周に沿って進む方向は、円に接する向きです。円の外側や内側へ飛び出す向きは、円周上の動きではありません。
つまり、接ベクトルは「多様体の上にいる人が、その瞬間に進める方向」です。
球面なら、接ベクトルは接平面の中にあります。地球の表面で立っている人にとって、東西南北へ進む向きは接平面の中にあります。地面から空へ飛び上がる向きは、球面上の移動ではありません。
地球儀の表面から離れずに進むと、平面の直線ではなく大円が自然な直線の役をします。測地線の直感です。
曲面の上では、ものさしが場所ごとに変わる
平面なら、2 点の距離は三平方の定理で測れます。
でも曲面では、座標の差だけを見ても本当の長さはわかりません。
放物面を見てください。中心付近はゆるやかですが、外側へ行くほど傾きます。
放物面は中心から離れるほど傾きます。座標の変化量だけでは、表面上の本当の長さを測れません。第一基本形式が必要になる理由です。
同じだけ座標を動かしても、曲面上を実際に歩く長さは場所によって変わります。
この「曲面上で長さや角度を測るためのものさし」を計量と呼びます。
第一基本形式
曲面のものさしは、第一基本形式と呼ばれる式で表されます。
2 つの座標を とすると、短い移動の長さはだいたい
の形で書けます。
ここで は、場所によって変わる数字です。
難しく見えますが、意味は単純です。
と は「座標を少しだけ動かす量」です。 は「その場所では、その座標の動きが実際の長さにどう効くか」を表します。
なぜ計量が大事なのか
計量があると、次のことができます。
- 曲線の長さを測れる。
- 2 つの方向の角度を測れる。
- いちばん短い道を考えられる。
- 曲面がどれくらい曲がっているかを調べられる。
微分幾何学では、計量を入れた瞬間に「ただの座標の世界」から「長さと角度を持つ世界」へ変わります。
まとめ
接ベクトルは、多様体上でその瞬間に進める方向です。
計量は、多様体上で長さと角度を測るためのものさしです。
次回は、このものさしを使って「曲がり具合」を見る曲率へ進みます。
次に読む
この記事の前提や続きを確認したい場合は、関連する記事と用語集をあわせて読むと全体像を追いやすくなります。